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東京高等裁判所 昭和53年(ラ)1385号 決定 1979年2月23日

抗告人(債権者) 株式会社南海商会

相手方(債務者) 有限会社グローバルエンタープライズ

主文

一  原決定のうち、抗告人の申請を却下した部分を取り消し、同決定添付別紙目録中、「請求債権の表示」欄の「一金六八一、七八〇円也」の次の項に「一金二〇、七〇〇円也但し、公正証書第七条による費用」を加え、「計金一一、一八六、八八〇円也」とあるのを「計金一一、二〇七、五八〇円也」と、「差押うべき債権の種類及び数額」欄の「金一一、一八六、八八〇円也」とあるのを「金一一、二〇七、五八〇円也」とそれぞれ改める。

二  抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一  抗告の趣旨及び理由

別紙のとおり

二  当裁判所の判断

1  記録によれば、次の事実が認められる。

大阪地方法務局所属公証人前田覚郎作成にかかる債権者抗告人、債務者相手方間の昭和五三年八月九日付「債務承認及びその履行に関する契約公正証書」正本には、第一条ないし第五条に、相手方が抗告人に支払うべき金銭消費貸借上の債務として金一〇五〇万円及びその遅延損害金等の支払に関する約定が、第六条に、いわゆる執行受諾文言が、第七条に、「本公正証書作成に要する費用金弐万七百円也は債務者の負担とする。」との文言が、それぞれ記載され、かつ、右公正証書正本につき、同年九月一一日同公証人によつて、抗告人に対し右第七条も除外されることなく、執行文が付与されている。

抗告人は、同年一一月三〇日相手方を債務者、申立外松倉良子を第三債務者として、前記公正証書作成に要する費用二万七〇〇円が執行費用に含まれる請求債権であるとして、東京地方裁判所に対し、債権差押及び取立命令の申請をしたところ、同裁判所は、「右費用は民事訴訟費用等に関する法律の定める費用に該当しないことが明らかであり、また、前記公正証書第七条の記載文言をもつては、債務者が債権者に対し一定金額の支払債務を負担することを表示したものとは解されないから、右二万七〇〇円については債務名義が存しないというべきである。」との理由を付して、右公正証書作成費用に関する申請部分を却下した。

2  そこで、原決定の当否について判断するのに、当裁判所も右公正証書作成費用が執行費用に含まれないとの原決定の判断は正当であると考える。しかし、同費用の負担条項がその文言からみて債務名義にならないとの原決定の判断は相当でないと考える。すなわち、訴訟、裁判上の和解、調停等において費用の支払義務を定めるに当つては、通常、「負担とする。」という用語例が使用されているが、この場合、「負担する。」との文言は、費用償還についての給付を命じ、又は約する意味に解することができることから、債務名義となると解されているところである。

したがつて、本件公正証書第七条の「本件公正証書作成に要する費用金弐万七百円也は債務者の負担とする。」との文言の趣旨も、前記用語例と同文であるから、債務者が債権者に対し右費用の支払を約したものとして、債務名義となると解するのが相当である(もつとも「負担する。」との文言は、一定の金員の給付を約する用語例としては、必ずしも適当でなく、原決定のような解釈をする余地もあるから、公正証書作成費用の支払義務を債務名義とする場合には、むしろ、「支払う。」と明確な表現をすることが望ましく、また、同条項は、これを執行受諾文言の前に挿入することが適当であろう。)。

しからば、抗告人の申立にかかる本件公正証書第七条の同証書作成費用金二万七〇〇円は、執行費用には含まれないが、公正証書作成費用に関する支払約定として債務名義となり、したがつて、本件差押及び取立命令の請求債権となると解するのが相当である。

よつて、原決定中、前記申請を却下した部分は失当であるから、これを取り消し、右判断の趣旨に従つて原決定を変更することとし、抗告費用の負担につき民訴法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 渡辺忠之 鈴木重信 糟谷忠男)

(別紙)

抗告の趣旨

原決定の却下部分を取消しそれ相当な裁判を求める。

抗告費用は相手方の負担とする。

抗告の理由

一 東京地方裁判所の今般の債権差押申請事件に付公正証書作成費用は債権者の請求の債権に含まれないとして却下されているが当庁昭和五二年(ル)第四八五〇号、同年五二年(ル)第四五五七号債権差押事件の決定ではこれを認められ更に全国の各裁判所の債権差押申請事件でも認めているのである。即ち公正証書作成費用全額を申請してあればこれを認めているのである。

二 仮に裁判所は執行費用としてこれが認められないとしてもその請求債権として(債権者は裁判所に対して目的対象を解す範囲内で口頭によつてもその申請が可能である)公正証書作成費用の請求を容認すべきである(岡山地方裁判所はこのような処理をしている)。

三 裁判所はある時は公正証書作成費用を請求債権として認めたり認めなかつたり又裁判官が変るとそれを認めないこともあると考えられるところであるが債権者が債権差押申請書を作成するに際し(裁判所と申請人が遠方の場合は尚更手続上の浪費が大である)訴訟経済上損害が増大する慮が大であるから上訴審の判断を仰ぎ度く抗告に及んだ。

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